こんにちは、イラストレーターの天壌です!
暑くなってきましたが、皆様いかがお過ごしでしょうか?今日はふと思ったことをまとめてみました。
著作権のおはなしです。
これからイラスト依頼を考えている方に知ってほしいことをイラストレーター側の視点で書きました。
これは受注側である自分だけが勉強しているだけでは解決しないなぁと思いまして。ご依頼いただく皆様にも少ーしお時間頂戴して読んで知っていただけるとありがたいです。
自分なりに調べてきたことですのでもっと詳しい方からしたらどこか違っている箇所もあるかもしれませんが、まずは考える入口にしてください。
ずーっと昔から思っていた事なのですが、ご依頼でクライアント様とやりとりしていて、日本人って(企業さん等も含めて)もしかして、もしかして、もしかして・・・・著作権に関して疎いのかな???と思いまして・・・。
企業さん側が著作権に関する内容をまだよくわかっていないうちから弁護士さんから「こっちの方が得ですよ!」という感じで軽ーく著作権譲渡を勧められてしまうお話しも多いみたいで・・・。
そんな状態でクリエイター側(私)の認識も甘かった。
私が説明した担当さんが把握していてくれていても、最後にゴーサイン出すトップの方がまだフワッとしてることもありました。
著作権をこちらが持つという話だったのに絵柄が勝手に改変されていたり・・・(ん?)
勝手に二次利用されていたり・・・。(んん??)
著作権・・・???ちょっとちょっとー!!
とこちらが出す前に声掛けすることで防いだこともありました。(どれもきちんと説明し直してご理解いただき事なきを得ております)
これもそれも止められたのも、こちらとのお約束を守り、二次利用の際にちゃんと事前に確認してくれるクライアント様に恵まれたおかげです。(その節はお世話になりました今後とも各位宜しくお願いいたします!)
自分はHPに説明のページも作っているし、いつも一緒に読んでいただくにも関わらず、複数人が絡むとこういった不幸なボタンの掛け違いみたいなことが起こりうるわけです。
人間だからね。ヒューマンエラーは起こるもの。
チェック体制があったおかけで防げました。よかった!!!
これ、ノーチェックな企業さんだと後でクリエイター側から怒られるお話なので皆様お気をつけくださいね。
ほら・・・某トップ銃な映画とか原作側が映画会社訴えてましたよね?
約束事(契約書)を守ってなかったので怒られたわけです。
あれも著作権です。
遠い話かと思ったら意外と近いでしょう?
びっくりですよね。
同じなんです。
【著作者人格権】
読んでいるみなさまは著作権とは別に著作者人格権というものがあるのをご存知でしょうか?
「こんなの私の絵じゃない。私の絵を勝手に変えないで!」と申し立てることができる権利です。
これはどうやっても法律上譲渡できない仕組みです。
・公表権(最初に作品を公表する権利)
・氏名表示権(名前・クレジットを出す権利)
・同一性保持権(勝手に改変されない権利)
・名誉声望保持権(作家を貶めない権利)
・出版権廃絶請求権(その作品に自信が持てなくなった時公表ストップをかける権利)
・修正増減請求権(複製時に新しいバージョンに差し替えられる権利)
上のようなもので構成されていて、作家が精神的に傷つけられないようにする権利=作家を守る権利なのでとても重要です。(人間の人権みたいな部分だなぁと初めて読んだ時思いました)
ですが、この作家を守る最後の砦が著作権譲渡の時には「著作者人格権の不行使」が基本的に「作家に権利を使わせない」ような目的でセットにされがちです。
セット販売はイラストとの相性は個人的に良くないなと思っています。
【著作権譲渡の問題点】
ここで文化庁の著作権に関する記載もペタリ
著作権の譲渡(第61条)の説明部分を引用
「単なる利用の許諾と異なり,著作権を譲り受け自らが著作権者となりますから,譲り受けた権利の範囲内で自由に著作物を利用することはもちろん,他人に著作物を利用させることもできます。」
著作権譲渡された人は「自由に著作物を利用できる」ことと併せて
実は
「他人に利用させることができる」「転売ができる」
のです。
譲渡契約だと赤の他人にも渡せてしまうし、依頼者側が権利を売って収益を上げることもできてしまうのです。
転売も可能・・・そんな大きな権利が毎回毎回必要でしょうか?
原文を読みたい人はここを参照↓出典:法令検索e-Govポータル
第六節 著作権の譲渡及び消滅(著作権の譲渡)第六十一条のあたりです
会社の拡大や再編があったら?そのバタバタの引っ越しの時にイラストがどうなるのか?
自分が作った制作物がどこまで及ぶのかがわからなくなります。
他社のロゴは使いまわせませんが、これがイラストだとどうでしょう?
使い回しが効くんです。
広告系のお仕事は基本的にバッティングはNGです。
著作権譲渡で契約していると、イラストレーターは今後その業種で仕事ができなくなる他に、更に最悪なことに、他業種への進出をも防がれてしまう可能性があるんです。
【例を挙げます】
例えばこの絵を
私の絵です。
仮にある映画会社に著作権を譲渡したとします。
もしこの絵ならパステル調の色味や蝶々・花のモチーフからまず美容業界とか、ビューティーコスメ系・婚活市場やブライダル関係の業種なんかで使い回しができません?
想像してみてください。
どんなところで使えるでしょう??
ロゴと違いかなーり使い回しが効くことが解りますね。
言い換えればそっちの業種に「売れる」ということです。
デザインの仕方によっては全く関係ない業種にも使われるかもしれません。
もし売らなくても譲渡契約なら作家の許可を取らずに同じグループの系列企業で使い回すこともできます。
権利を買った企業が使い回した業種分、作家は同じ業種の新規依頼を受けることができません。
バッティングしてしまうからです。
契約内容によっては作家が賠償金を支払う場合も出てきます。
譲渡契約したイラストレーターは過去の自分の作品に囚われ続けるのです。
その絵は下手すると回り回って風俗の看板に使われているかもしれません。
ありえないと思いますか?
譲渡契約の場合はイラストを売る際にイラストレーターにいちいち許可を取る必要がないので可能です。
それに対してイラストレーターは文句を言うことはできません。
譲渡契約してしまっているからです。
たくさん使われてたくさん利益を出しているのにも関わらず、イラストレーターは最初の依頼料しかもらえません。
でもこれって何だかおかしいと思いませんか?
企業には莫大なお金が入ったとしてもイラストレーターには最初に払われた金額のみで後は一銭も入らないのです。
それってフェアですか?
譲渡契約する際には上記のような様々なリスクを考える必要があります。
イラストがデザインよりも使い回しが効きやすく、その性質上著作権譲渡契約と相性が悪いのがわかるでしょうか?
【コミッションの功罪】
新規イラストレーターが案件獲得に使うコミッション系のサイトでも問題がありました。
個人が気軽にイラストを依頼できるし依頼を請けられるサイトですね。
初めての作家さんはどのような流れで依頼を受ければいいかがきちんと体形立てて書かれているので参考になります。
依頼の入り口として私も勉強できました。
その際はお世話になりました。
いくつかのサイトで見たのですが、多くのコミッションサイトは著作権譲渡と著作者人格権の不行使がセットになってテンプレート化されているみたいです。
私が最初に登録したサイトさんも譲渡契約がテンプレートのデフォルトでした。
しかし、譲渡契約したいと言いつつ譲渡契約とは矛盾する依頼内容を書かれている方も散見されたので、どうして権利を譲渡して欲しいのかを何人かのクライアントさんに質問してみることにしました。
すると、「よくわからないけどテンプレートに書いてあったので間違いないと思った」と言うのです。
恐ろしいことに多くのクライアントさんは著作権譲渡と著作者人格権不行使のセット契約について意味をよくわかっていませんでした。
交渉して最終的に著作権はこちらに留保してもらいましたが、これってどうなんでしょう?
おそらくそのテンプレートは企画ロゴなどのデザインを他所で使い回しされないよう入っているのだとは思うのですが・・・イラストの場合はちょっと事情が異なるのです。
因みに世の中にはロゴでも譲渡しない契約書の書式はあります。
ケースバイケースだと思うので、ご依頼者さまも他人の作ったテンプレートばかりを鵜呑みにせずに「この依頼には適しているか」をよく精査して確認してご依頼ください。
【商用利用≠譲渡契約】
その契約内容のテンプレート、大丈夫ですか?
必ずしも商用利用=譲渡契約ではないですよ。
譲渡しないで都度確認して作家が使用料を追加でいただいている案件も世の中にはたくさんあります。
だって制作費+1回の使用料くらいのお値段でいっぱい使いたい放題プランだったら依頼する方としてはお得だと思いますけど、それって契約としてフェアじゃないですよね。
個人の一人親方の外注のイラストレーターとしては「それは承服いたしかねます」というお話しです。
【イラストは作家性が大事】
イラストは長年培った作家の個性を商売道具にしているんです。
厳密には譲渡したら明日からこの業界では同じ絵柄は二度と使えないんです。
簡単に「絵柄を変えてください」→「はい変えます」とはいきません。
イラストの作家性とは長年の研究と、毎日の修練と、依頼をこなす量=経験がなせる技だからです。
初めての依頼から10年、相手の事情や要望を汲んでクライアントさまの求めるものを描けるようになるまで私は10年以上かかりました。
デザイナーさんでも言いますよね。
大学出て会社に入って揉まれて数年後にやっと思った通りの形になるって。
「描くだけ」なら大学生の子でも描けはします。
イラストレーターはコツコツ机に向かう型の作家さん(まぁ要はコミュ障です。昔の自分です)が多いので、企業さんや新しいクライアントとの交渉をめんど・・・渋る作家さんは多いです。(10年前の私ですね)
クライアントとちゃんとやり取りできない人もいるでしょう。(それで絵は上手なんだけども依頼を受けていない方もいると思います)
それだけ話ができて・人の話を聴けて相手の希望を汲んでこなせる・形にできる「プロ」のイラストレーターは今も昔も貴重だということです。
「聞き取る能力」はAI絵にもまだ無い、人間のクリエイター独自のものだと思います。
(AIに関しては学習元がクリアでなければ訴訟リスクを抱えてしまい商業的には使えないので、今もプロのイラストレーターの絵は求められています)
【著作権についてお互いに知っておこう】
片方もしくは両方が契約内容を読み込めず、わかっていない状態での契約締結はリスクです。
まず誰と誰が契約するのかを考えてほしいです。
その価格は適正ですか?
使用期間の明記がなければ一生クリエイターはその企業に繋がれる事になります。
イラストレーターは使用料が大きな財産です。
使用料は漫画家さんならば印税に当たる部分です。
著作権はイラストレーターの今後の老後生活のセーフティーとなり得る大事なものです。
なんなら作家の死後70年も効力を発揮するものです。
家族に遺せるものなんです。
遺産です。
竹久夢二の絵は最近著作権の話で話題になりましたね。
著作権フリー素材がスゴすぎ…広重や夢二も全部無料 国立国会図書館の試みに「工作心がムズムズ」「活用しない手はない」
今では大正浪漫を代表する画家として認識され美術館に飾られていますが、当時は画壇にも属さない野良作家である夢二の原画の評価は高くなく、本の挿絵や雑貨のイラスト・・・主に印刷物の方が評価が高かったそうです。
画家、と言うよりはイラストレーター・デザイナーですね。
自分と近い感じがして(勝手に)非常に親近感が湧きます。
最近夢二がニュースになったのは著作権保護期間が切れて、国立国会図書館のページから申告不要で個人利用できるようになったから。
(商用利用は引き続き確認と連絡が必須で、場合によっては使用料が必要ですのでお気をつけ下さい)
大正時代の作家の著作権が切れたことで一般の人が使えるようになったのです。(使う場合は引用元の記載は必要です)
そのくらい著作権は長い期間に関わってくるのです。
【もし譲渡契約するなら】
著作権譲渡契約を伴った不当に安い価格は下請法的にアウトです。
買いたたきに当たりますので雇用者に当たる未来のクライアントの皆さまはぜひ下記資料のご一読をお願いいたします。
公正取引委員会の「コンテンツ取り引きと下請法」PDFより(P3参照)
作家が本来持っている権利を譲渡させるならば、使用期間が長いならば、その分のイラストレーターの生活を保障する報酬をお願いいたします。
イラストレーターにとってそれだけ大きな権利を買い取るのです。
日本の駆け出しの方でも1枚1000万とかでしょうか??
何しろ作家の死後70年もあるものですので・・・。
それが著作権譲渡契約の本来の適正価格になります。
高いと思いますか?
ミッキーにも、トップガンにも、日本の竹久夢二にもそして今を生きる私たちイラストレーターにも同じ法律が適用されていることを忘れないでください。
そしてイラストレーターが死後に、家族にも遺せる遺産を、企業さま・未来のクライアントさまはイラストレーターから安くで取り上げないで欲しいのです。
未来のクライアントの皆様はコンプライアンス(法令遵守)をお願いいたします。
契約書関係で検索すると弁護士事務所が割と検索のトップに出てくるのですが、まず「譲渡の方がシンプルで楽だよね!」的な日本の弁護士さんの説明を見てしまって、先述の某トップガンの話を見て「そうかなぁ?」となってしまいました。
弁護士さんが権利を持ってて絵を描いて納品するならいいと思います。
契約書の文章・内容、もちろん大事です!
チェックお疲れ様です!!(ありがとうございます!!)
でもそれ以前に、締結する当の本人たちがお互いに内容を理解できていない・納得できてないと、契約書を交わしたところでトラブルの元なんです。
映画の件も大きな会社さんですからきっちり交わしていたはずです。
でもトラブルは起こってしまった。
私が著作権についてクライアントの皆さんに知ってほしいのはそのためです。
【作家が守りたいものは依頼者側にもメリットが】
クレジットってクリエイターにはとてもとても大事です!
著作権譲渡してしまったら名前を名乗る、そんな当たり前のこともできません。
作家名をクレジットすると依頼者さまにもメリットがあります。
作家のファンが興味を持ってくれるのです。
クレジット、大事ですよ。
あそこの会社さんにご依頼いただいて描いたんですー!ってぜひ自慢させてください。(もちろん非公開案件もお受けできます。ただし公開案件よりも割高になります)
実は権利が作家側にあった方がイラストの管理が依頼者側としても楽です。
というのは作り手の作家の方が絵について簡単には忘れづらいということ。
私の場合は「作品をいつ渡したか」「期限はいつまでか」も常に記録を取っています。
仕事としてやっているプロの作家さんは大抵完成データ(や原画)を残しています。
資産と思えば作家も家族に託す時にはきちんとデータ整理するでしょうし、なので作家がボケない限りは大丈夫です。
私の場合は月ごと・年ごとにデータフォルダに入れて2重3重に定期的にバックアップしています。
著作権が作家側にあるとデータの原本管理をイラストレーター側がしているので、あのイラストどこ行ったっけ?ということになりません。
私はご依頼の時期から何年何月ごろ〜とかでフォルダから常に引き出せるように整えていますので、10年以上前のデータも探し出せます。
更に私はご請求書には必ず住所・氏名(本名)・電話番号・メールまで載せていますので、何年経っても必ず連絡がつくようにしています。
依頼者側(企業さま)管理だと、担当さんが退職して居なくなっちゃったら後を引き継ぐのは大変ですよ?
企業さまにとってもイラストレーター側に著作権があると、とてもデータ管理がスマートで、楽になるんです。
【まとめ】
データ管理は大変で、ご依頼する際のお金も沢山かかるし、コスパがすごく悪いので、著作権譲渡契約ははっきり言ってお勧めはしていません。
商用利用でも著作権を作家側に留保し、再度何かに使い回したい(二次利用する)場合は都度使用料や使用範囲をご相談いただく方法がスマートです。(期間を決めてのご契約もできます。ケースによって柔軟に対応いたします)
最初に書いたように作家側に確認をしてもらうと外部からのチェック体制も働きます。私の場合「これ大丈夫?」の確認と一緒に「どう思う?」って聞いちゃってもOKです。
第三者の目線、大事ですよ?
これが私が著作権を基本的に譲渡しない理由です。
企業の皆様は自社に関わっているイラストレーターやクリエイターを味方にして下さい。
著作権譲渡契約では権利をその場で売ってしまうので、信頼関係ははっきり言って育ちづらいです。
著作者人格権不行使だと更に難しいです。
「私は作家の尊厳は守りません!」と言っているようなもの。
そして譲渡契約は報酬的にも片方だけがWinになることが多いです。
契約するならWin-Winで。
契約書については、私が独自で制作した、優しい言葉や文章表現を使った契約書のひな形を用意しておりますので、個人の方も、イラストレーターに依頼し慣れてない企業さまもぜひ安心して当方にご相談ください。
Win-Winなご依頼ならばぜひ!
宜しくお願いいたします!
書いたのはこんな人です
天壌
長崎のイラストレーター・画家・デザイナーです
1983年長崎生まれ
名古屋造形芸術大学(洋画専攻)卒業後、
図書館に勤めながら依頼をこなす
美術関係の仕事を経てデザイナーに転職
2018年会社を退職、フリーランスに
絵やデザインの仕事をしながら展示会にも精力的に出展している
長崎在住
HP
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